2025/04/08
【離婚後の住宅ローン】自分が払ってるのに…完済・繰り上げ返済・借り換えができない!?名義人問題の罠
離婚の際、住宅ローン付きの家について、「家は私がもらう。その代わり、残りのローンも私が支払う」という取り決めをすることは珍しくありません。特に、子どもがいる場合など、住み慣れた家を離れたくないという思いから、このような選択をする方は多いでしょう。
しかし、この「家をもらう人」と「住宅ローンの名義人(債務者)」が異なるケースには、後々、ローンを完済したいと思ったときに、思わぬ問題が生じることがあります。今回は、そんな「名義人問題」の落とし穴について解説します。
ケース紹介:離婚時の約束と現実
Aさん(妻)は、離婚時に夫Bさん名義の家に住み続けることを選択。財産分与として家を取得し、残りの住宅ローンもAさんが支払うと約束しました。Bさんもそれに同意し、離婚が成立。Aさんは毎月、Bさんの口座にローン返済相当額を送金し、Bさんがローン返済を行う形で、これまで支払いを続けてきました。
数年後、Aさんはまとまった資金ができたため、ローンの負担をなくそうと繰り上げ返済を考えます。しかし、ここで問題が発生しました。
問題1:繰り上げ返済したくても、銀行が受け付けてくれない!
Aさんが銀行窓口に繰り上げ返済を申し出たところ、「このローンの契約者(債務者)はB様ですので、A様からの繰り上げ返済は受け付けられません」と言われてしまいました。
銀行にとって、あくまで契約の相手は債務者であるBさんです。たとえ離婚協議書で「Aさんが支払う」と約束していても、それはAさんとBさんの間の約束事。銀行とのローン契約が変更されたわけではありません。繰り上げ返済のような契約内容に関わる手続きは、原則として債務者本人でなければ行えないのです。
Aさんが繰り上げ返済をするには、元夫であるBさんに銀行へ行ってもらい、手続きをしてもらう必要があります。
問題2:金利が高い…でも、借り換えも自由にできない!
Aさんは、現在のローン金利が高いことにも不満を持っていました。もっと金利の低いローンに借り換えたいと考えても、これもまたAさん一人ではできません。
現在のローンを完済し、新たにAさん名義でローンを組む(借り換え)には、現在のローンについての手続き(完済手続きなど)にBさんの協力が不可欠です。さらに、そもそもAさん自身の収入で新たにローン審査に通るかという問題もあります。
もしBさんの協力が得られなければ、Aさんは金利が高いまま、ローンを支払い続けるしかなくなってしまいます。
問題3:やっと完済!でも、抵当権抹消の書類がもらえない…
なんとかBさんの協力を得て、あるいは毎月支払い続けて、ついに住宅ローンを完済!これで一安心…と思いきや、最後の関門が待っています。
ローンを完済すると、銀行は家(不動産)に設定されている**「抵当権」を抹消するための書類**を発行します。この書類がないと、法務局で抵当権抹消登記ができず、登記簿上はいつまでもローンが残っているような状態になってしまいます。将来、家を売却したり、新たなローンを組んだりする際に、この抵当権が残っていると大きな障害になります。
そして、この非常に重要な抵当権抹消書類も、銀行は原則として債務者であるBさんにしか渡しません。 Aさんが完済まで頑張って支払ったとしても、最後の最後でBさんの協力が必要になるのです。もしBさんと連絡が取れなくなっていたり、協力を拒まれたりした場合、手続きは非常に困難になります。
なぜこんな問題が起きるのか?
根本的な原因は、「離婚時の約束(財産分与や支払い義務の取り決め)」と「銀行とのローン契約」が別物である点にあります。離婚によって夫婦関係が解消されても、銀行とのローン契約上の債務者が自動的に変わるわけではありません。
どうすればよかったのか?/ 今後の対策は?
- 離婚時に解決しておく: 最も望ましいのは、離婚時にローン問題を解決しておくことです。具体的には、
- 家に住み続ける側が、自分名義でローンを借り換える(ただし審査が必要)。
- 家を売却し、売却代金でローンを完済する(アンダーローンの場合)。
- 売却してもローンが残る(オーバーローン)場合は、その返済方法、繰り上げ返済、借り換え、完済時の抵当権抹消への協力義務も含めて明確に取り決める。
- 元配偶者の協力確保: すでにこの状況になっている場合は、ローンに関する手続き(繰り上げ返済、借り換え、完済、抵当権抹消)が発生するたびに、元配偶者の協力が必要になります。良好な関係を維持するか、少なくとも事務的な協力は得られるように、連絡先はお互い知っておくことが重要です。
- 専門家への相談: どうしても協力が得られない場合や、手続きが複雑な場合は、弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。
まとめ
「家はもらう、ローンも私が払う」という離婚時の取り決めは、一見シンプルに見えますが、「ローンの名義人」が元の配偶者のままだと、将来的に完済や借り換え、抵当権抹消といった重要な手続きで、元配偶者の協力が不可欠となり、思わぬトラブルの原因となります。
住宅ローン付きの家の財産分与は、目先の利便性だけでなく、ローン完済までの長期的な視点で、契約内容や名義の問題をしっかり考慮することが重要です。